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乳がんの治療

乳がん治療

乳がんの治療には、患者様の症状や時期に応じて、乳がんやその周辺に対して行う手術や放射線治療、身体全体を対象として手術の前や後に行う薬物療法があります。なお、薬物療法では内分泌療法、分子標的治療、化学療法などが行われます。

乳がんの手術

手術は、手術設備を十分に備えている高度医療機関にて実施します。
当院で手術が必要だと判断した患者様は、提携病院と連携のうえ入院の手続きを行います。患者様のご希望をお伺いして、手術を行う医療機関をご紹介することもできますので、お気軽にご相談ください。

放射線治療

乳がんの手術を受けた場合、乳房温存術では切除しなかった乳房部分に対して、腋窩リンパ節転移が4箇所以上ある乳房切除術では胸壁に対して、放射線による治療を行います。治療は、1回当たり放射線を当てる数分と準備時間を含めて30分程度で、1ヶ月ほどの期間となります。通常、手術を行った医療機関で放射線治療を実施しますが、専用の装置を備えていない施設の場合は、連携する高度医療機関をご紹介いたします。また、患者様のご希望をお伺いして、放射線治療が行える施設であれば、そちらをご紹介することもできます。

薬物療法

薬物療法として実施しているものには、抗がん剤の服用、内分泌療法、分子標的薬治療があり、乳がんのサブタイプに応じて選択します。また、患者様の状態によって標準治療に準じた薬物療法が行えない時は、先進医療や治験も検討し、最適な治療を受けて頂けるように努めております。
治療薬の選択は、下記のサブタイプ別の表にお示ししていますように、ホルモン感受性の有無・HER2蛋白の陽陰性・がん細胞増殖能力の高低(Ki-67)によって行われます。ホルモン感受性があればホルモン剤を、HER2陽性であれば分子標的薬の抗HER薬、トリプルネガティブでは抗がん剤や免疫チェックポイント阻害剤が用いられます。

サブタイプ別の治療の表

乳がんのサブタイプによって補助療法が異なります

サブタイプ ホルモン感受性 HER2蛋白 増殖能(Ki-67) 全身治療
ルミナールA型 あり 陰性 低値 ホルモン治療のみ
ルミナールB型 (HER2陰性) あり 陰性 高値 ホルモン治療 抗がん剤は使用する時としない時がある
ルミナールB型 (HER2陽性) あり 陽性   ホルモン治療 抗がん剤 分子標的薬
HER2 なし 陽性   抗がん剤 分子標的薬
トリプルネガティブ なし 陰性   抗がん剤 (免疫チェックポイント阻害剤)

代表的な手術法

乳房温存手術

乳首や乳輪は残して、乳房の病変部分を取り除く手術です。温存手術では、あまり切除する箇所が大きくならず、乳房の形を変えない乳房円状部分切除術が主に行われます。また手術創も、乳輪の縁、乳房下部、脇の辺縁などを選び、美容の面からも可能な限り傷跡が目立ちにくい方法で実施します。

乳房切除術

皮膚、乳首や乳輪なども含めて乳房全体を取り除く手術です。大きな病変でなくても乳首へ続く恐れがある時、サイズが3cm以上のもの、2ヶ所以上のしこりなど、乳房温存術を行えない場合に実施します。その他、乳房温存術が可能であっても、患者様が乳房切除術を希望された場合に行うケースもあります。

乳頭乳輪温存乳房切除術(Nipple Sparing Mastectomy)

乳首や乳輪、皮膚は残し、内側の乳腺全体を取り除く手術です。乳がんのサイズが大きいため乳房温存術は困難であるものの、病変部と乳首が繋がっていないケースで選択されます。乳腺の切除は行いますが、乳首や乳輪部分が保たれるのでストレス軽減にも繋がり、また乳房の再建を行う時に自然な見た目にすることが可能です。

乳房再建術(人工物による再建、自家組織再建)

保険診療で行える乳房再建術には、人工乳房を用いる方法と患者様ご自身の組織を用いる方法の2種類があります。人工物による再建は、まずティッシュエキスパンダーで皮膚と周辺部分を伸ばし、その後、人工乳房と入れ替える手術です。ご自身の組織を用いる場合は、患者様に応じて広背筋、腹直筋、大腿部内側から移します。再建術は、乳がんの手術と一緒に実施するものと、後から実施するものがあり、双方の利点と難点を考慮して、形成外科と協力しながら選択することが大切です。

代表的な薬物療法

薬物療法には、抗がん剤、ホルモン治療、免疫治療があり、治療の時期により手術前と後に区別されます。

術前化学療法

抗がん剤による治療は、乳房部分のがんだけでなく、乳がんが全身に広がった時にも効果があります。乳がんは、HER2蛋白の陽陰性やホルモン感受性の有無でサブタイプに分類され、種類によって手術前後の抗がん剤治療が推奨されます。手術前に化学療法を行うことで、その有効性を確かめると共に、がんの縮小により取り除く組織を減らすことが可能となるため美容面での利点も得られます。また、抗がん剤の投与でがん細胞が残存するか消滅するかによって、手術後に行う治療法も変化します。このように薬剤の反応で治療を選択するレスポンスガイドは、術前化学療法における大きな利点となっています。現時点で、HER2、トリプルネガティブに対するレスポンスガイドによる治療が行われています。

術後補助療法

術後補助療法には、抗がん剤治療やホルモン剤治療による全身を対象とした治療と乳がんやその周囲に対して行う治療があります。

全身治療

周囲への広がりを認めない非浸潤がんの時は、治療をさらに行うことはありません。一方、浸潤がんの時は、再発防止を目的に抗がん剤の服用または点滴、ホルモン剤の服用を行います。お薬はレスポンスガイドによって異なるため、診察時にお尋ねください。
ホルモン感受性が陽性の場合、ホルモン剤の服用、分子標的薬(アベマシクリブ服用)を行い、抗がん剤(S1服用)は状態によって使用する時としない時があります。
HER2乳がんは、がんのステージやサイズによって異なるものの、抗がん剤点滴と抗HER2薬の組み合わせで行います。また、トリプルネガティブタイプは、抗がん剤の点滴や抗がん剤(カペシタビン)服用を行います。

局所療法

この場合、放射線治療が局所療法に相当します。乳房温存術で切除しなかった乳房、4箇所以上の腋窩リンパ節転移が見られる乳房切除術では胸壁に対して放射線を用いて治療を行います。ただし、再発や転移の恐れが小さい方や高齢者では行わない場合もあります。

乳がんのホルモン治療について

およそ7割の乳がんの患者様が、女性ホルモンであるエストロゲンの働きでがん細胞が増えるため、エストロゲンの合成や作用を抑制するホルモン剤による治療(内分泌療法)を行います。

閉経の前後で用いるお薬が変わります

エストロゲンは、閉経前後で生成の仕組みが異なるため、状態に応じて用いるお薬が変わります。

  • 閉経前:卵巣でエストロゲン生成が行われます。
  • 閉経後:酵素のアロマターゼの作用で、副腎皮質から放出される男性ホルモンのアンドロゲンからエストロゲン合成が行われます。

乳がん治療によく使用されるホルモン剤

閉経前

種類 効果
抗エストロゲン薬 エストロゲンの乳がん細胞への働きかけを防止する
LH-RHアゴニスト製剤 卵巣でのエストロゲン生成を抑制する
黄体ホルモン薬 二次的にエストロゲンの作用を抑制する

閉経後

種類 効果
アロマターゼ阻害薬 エストロゲン合成に関わるアロマターゼの作用を阻止する
抗エストロゲン薬 エストロゲンの乳がん細胞への働きかけを防止する

閉経前の術後ホルモン療法

抗エストロゲン薬による治療を10年間行います。
通常の閉経前の術後ホルモン療法では、10年間の抗エストロゲン薬による治療と並行して卵巣でのエストロゲン生成を抑制するLH-RHアゴニスト製剤による治療を2〜5年間実施します。

治療中に閉経が認められた場合

5年間抗エストロゲン薬による治療を行った後、アロマターゼ阻害薬を用いた治療を5年間実施することがあります。

閉経後の術後ホルモン療法

アロマターゼの作用を阻止するアロマターゼ阻害薬による治療を5年間行います。ケースによっては、10年間治療を行う場合もあります。
副作用が生じた時などに、抗エストロゲン薬による治療を行う場合は、10年間継続することもあります。
また、ホルモン剤の服用期間に閉経を迎えた方は、2~3年間抗エストロゲン薬による治療を行った後にアロマターゼ阻害薬へお薬を変えてトータルで5年間の治療を行う場合や、抗エストロゲン薬による治療を5年間行った後にアロマターゼ阻害薬による治療を2~5年間行う場合があります。

閉経状況の目安

下記の条件で、閉経と判断します。

  • 1年以上無月経の時
  • FSH値高値(40IU/ml以上)かつE2(エストラジオール)値低値(10-20pg/ml以下)の時

日本女性における閉経年齢

  • 平均50.5歳
  • 初潮の年齢、出産の回数、人種や場所による違いは関係しない

※日本産婦人科学会資料より

ホルモン剤の主な副作用

ホルモン療法は、乳がん細胞が増えることを防止するため、女性ホルモンであるエストロゲンの働きを抑える治療です。お薬の作用でエストロゲン量が低下することによって、更年期障害に似た状態が見られます。副作用は治療薬の種類により違いがあり、出現や程度も1人ひとり異なりますので、気がかりな症状などがあれば、お気軽にお尋ねください。

発汗・ほてり・のぼせ

一般的にホットフラッシュと言われる状態です。エストロゲン量の低下により、体温のコントロールが乱れるために汗が吹き出る、ほてるなどの症状が見られます。閉経後の術後ホルモン療法を行う場合に、稀ですがホットフラッシュが生じることもあります。

肩こり・頭痛・イライラ・うつ状態

ほてりやのぼせ以外に、眠れないなどの睡眠障害も比較的多く見られます。このような精神・神経症状がある場合には、カウンセリング、安定剤や睡眠薬の服用などが有効です。

筋肉痛・関節のこわばり

筋肉痛などが生じた時は、大半は運動を取り入れ身体を動かすことで、徐々に軽快していきます。また、重い症状が見られるケースでは、消炎鎮痛剤を使用して緩和を目指します。

骨密度低下

エストロゲンが減るため骨量が低下し、骨折が起こりやすい骨粗鬆症を引き起こす可能性があります。ホルモン療法期間中は、骨密度検査を年に1回行って骨の様子を確認することが大切です。また、日頃から身体を動かすことを心がけ、食事でカルシウムやビタミンDを十分に摂ることは、骨密度を増やすことに繋がります。

その他

その他の副作用として、血栓や膣炎、不正出血などの女性器症状などが挙げられます。治療による変化や気づいたことがあれば、お気軽にご相談ください。