乳腺症
乳腺症とは、乳腺にしこりや痛みなどが生じたり、画像上で変化を示したりする状態全般を言います。
乳腺の状態は、女性ホルモン分泌量の違いによって、生理周期以外にも、発育や年齢による変化が見られます。また、乳房自体も形やサイズ、張りなどは個人差があるうえ、常に一定ではありません。一般的に乳腺症は、多様な症状を示すものの、疾患ではなく、正常でも起こる変化が過剰な状態を指します。性ホルモンの不均衡によって生じると言われていますが、現時点で原因は解明されていません。
乳腺症の診断・治療
乳腺症の診断は、自覚症状の確認と乳腺エコーやマンモグラフィなどの検査によって行います。
なお、乳腺症の検査において、乳がんの可能性を否定できない石灰化やしこりが見つかった場合は、針生検や細胞診などの病理検査やMRIなどの画像検査を追加して、経過観察を続けることがあります。
通常、特別な治療は行わず、定期的に状態を見ていきますが、激しい痛みを伴うケースでは漢方薬や鎮痛剤を使用することがあります。また、乳腺症で生じる張りや痛みの症状軽減には、脂肪やカフェインを摂り過ぎない、睡眠時間の確保、ストレスの解消などの対策が有効であると言われています。
乳腺症についてよくある質問
年期に乳腺症が生じることはありますか?
性ホルモンの分泌量が変わる更年期に、一時的に乳腺症が多く見られる場合があります。反対に、卵巣の働きが衰え始めることで、症状が軽くなる方も少なくありません。
乳腺症の場合、乳がんになりやすいのでしょうか?
乳腺症は、病気ではなく良性の変化のため、基本的に乳がんに移行する危険性はありません。ただし、乳がんは乳腺症の有無にかかわらず生じる可能性を否定できず、乳腺症があるとそうでない乳房よりも発見しにくいことがあるので、検診を欠かさず受けることが重要です。
乳腺のう胞
乳腺のう胞は、詰まった乳管が袋状になって、水分が貯留した状態を言います。乳房にしこりを触れる場合もありますが、症状に乏しく、乳がん検診のエコーで発見されたり、サイズや部位によってはマンモグラフィに映し出されたりして見つかるものが大半です。
溜まった水分の量が増えると、乳房の張りとして症状を自覚することがあります。
女性ホルモンのバランスによって、乳腺からの水分が溜まりやすくなることで、乳腺のう胞ができると考えられています。女性ホルモンの分泌が低下する更年期以降は、乳腺のう胞の発生も減少します。
乳腺のう胞の診断・治療
基本的に乳腺のう胞の診断は、エコー検査で行いますが、通常とは形状が異なり腫瘍との鑑別を要するケースでは、細胞診や組織診などを実施する場合もあります。
乳腺のう胞の大半は、治療を行わず、様子を見ていて構いません。ただし、しこりの性状を調べる時や、のう胞が巨大化して痛みを感じる時は、穿刺により貯留液を抜く場合があります。
乳腺線維腺腫・葉状腫瘍
乳腺線維腺腫について
乳腺線維腺腫は、10代後半以降の若年層の女性に多く生じる良性のしこりを言います。
大半は、可動性のある境が明瞭なしこりとして認識されますが、あまり硬くなく、サイズが微細な場合は乳がん検診時に見つかる場合もあります。また、女性ホルモンの関与でサイズが増大するものがありますが、一般的に大きくなっても2〜3cmほどで、経過観察中に形状の変化や石灰化を生じ、不明瞭になる場合もあります。
乳腺線維腺腫の診断・治療
診断は、基本的にエコー検査によって行いますが、大きなサイズのものや他の腫瘍と区別がつきにくいものでは、針生検や細胞診を実施するケースがあります。大半の乳腺線維腺腫は特に治療を行わず、経過を見ていきます。ただし、急激に増大する時や巨大なしこりは、手術による切除が選択されます。
葉状腫瘍について
葉状腫瘍は、発生頻度の低い乳腺にできるしこりです。
線維腺腫と症状や画像検査上の見え方に共通する点が多く、急激に巨大化するものがあります。また、針生検の結果も線維腺腫と区別しにくいタイプがあります。
良性のものが大半ですが、良性と悪性の間に当たる境界型や悪性のものも存在するため、基本的に腫瘍を手術によって切除する治療が行われます。ただし、葉状腫瘍は摘出しても再発しやすく、局所再発率はおよそ20%に上ると見られています。また、頻回の再発によって悪性化する恐れもあるため、手術後も経過を定期的に見ていくことが欠かせません。
乳管内乳頭腫
乳管内乳頭腫は、30代〜50代の女性に好発する乳管内部に生じる良性のしこりです。乳房のしこりとして感じるものや、乳首から血液成分を含む分泌液が見られるものがあります。
乳管内乳頭腫の診断・治療
乳管内乳頭腫の診断をするために、エコー検査やマンモグラフィを実施します。その他、細胞診や組織診によって、しこりの性状を詳しく調べることもあります。
また、非浸潤性乳管がんなどの悪性腫瘍との区別がつきにくい時や、乳頭部からの分泌液が続く時は、診断をつけるためにしこりの切除を選択するケースがあります。
乳管内乳頭腫は経過を継続して見ていくことで、いち早くがん化などに気付き、速やかに適切な対処を行うことが可能となります。
乳管内乳頭腫についてよくある質問
乳管内乳頭腫の場合、がんができることはありますか?
乳管内乳頭腫は基本的に良性のしこりですが、頻度は低いもののがんが生じるリスクがあります。なかでも、急に巨大化する時や血性の分泌物がある時は、悪性腫瘍を考え、さらに検査を行う場合があります。
乳腺炎
乳腺炎は、乳汁が乳房の中で滞ったり、細菌による感染が起こったりして乳腺に炎症が生じる病気です。授乳期間中の女性に多く見られますが、なかには授乳とは無関係のものもあります。
乳腺炎の主な症状
下記の症状が見られる時は、早期に当院をご受診ください。
- 乳房が熱っぽく、発赤や腫脹が見られる
- 乳房に痛みがある
- 乳房の硬さや張りを感じる
- 頭痛、全身倦怠感の他、悪寒がして熱が出る
- 脇の下のリンパ節が痛みを伴って腫れる
など
乳腺炎の原因
乳腺炎は、うっ滞性乳腺炎と化膿性乳腺炎に分けられます。
うっ滞性乳腺炎は、乳汁の乳房内での流れが滞り貯留するために炎症が生じるものです。化膿性乳腺炎は、細菌が乳腺に侵入して感染が起きることで炎症が生じます。
また、元々うっ滞性乳腺炎が生じていたところに細菌が入って起きる化膿性乳腺炎感染と、授乳期間とは無関係に感染が生じるものがあります。後者は、乳首にできた傷からの細菌の侵入が原因です。
乳腺炎の治療
うっ滞性乳腺炎では、乳汁の乳房内での滞りを解消するために、授乳回数を増やしたり、搾乳を行ったりして母乳を出すようにします。高熱や激しい痛みなどが見られる方には、鎮痛剤や抗生剤を用いた薬物療法を行うことがあります。その場合、授乳期間でも内服可能なお薬を使いますので安心して治療をお受けください。
化膿性乳腺炎では、感染を改善するための抗生物質や、熱や痛みを緩和するための解熱鎮痛薬による治療を行います。
高濃度乳腺
高濃度乳腺(デンスブレスト)について
乳房組織は乳腺と脂肪に大別され、マンモグラフィ画像上では、乳腺は白く、脂肪は黒く映し出されます。
高濃度乳腺は乳腺の割合が高いので、マンモグラフィでは乳房全体が白く見えます。また、乳がんなどの病変部も画像では白い像となるため、高濃度乳腺の乳房は、がんを見つけにくい恐れがあります。
したがって、高濃度乳腺の場合、マンモグラフィ単独の検査ではなく、エコー検査を組み合わせて行うことが、乳がん検査の検出率を上げることに繋がります。
高濃度乳腺の問題点
病変の発見が困難
高濃度乳腺では、乳腺部分が多く全体的に白く見えます。また、乳がんなどの病変も、マンモグラフィ画像上に白い像として映し出されます。そのため、異常があっても発見しにくく、鑑別が困難になります。
乳がんの発症率が上昇する
通常、年齢を重ねると乳腺は脂肪に変わるため、大半が高濃度乳腺から変化していきます。しかし、乳腺の変化に乏しく高濃度乳腺状態が継続する場合、変化する方に比べると乳がんになりやすい傾向があることが知られています。現時点では、高濃度乳腺が乳がんの発生率とどのように関与するのか明らかではありませんが、ご自身が高濃度乳腺に該当するかを知っておくことは、乳がんを初期に見つけることや今後の検診受診の効果を高めることに役立ちます。
よくある質問
濃度乳腺タイプでは、マンモグラフィ以外にどのような検査が必要でしょうか?
乳腺エコー検査も一緒に受けることをお勧めします。
検査時の痛みや被ばくなどがなく、短時間で行えるエコー検査は、マンモグラフィでは見つけにくい、しこりの描出に優れた精度の高い検査です。
エコー検査を受けたら、マンモグラフィは必要ないでしょうか?
マンモグラフィ検査も受けることをお勧めします。
マンモグラフィは、エコー検査では発見しにくい石灰化のある小さな変化を描出できるという特徴があります。
高濃度乳腺タイプは、エコー検査とマンモグラフィを組み合わせることで、乳がんなどの異常を早期に発見することができます。
濃度乳腺の場合、注意する点はどのようなことでしょうか?
高濃度乳腺自体は病気ではありませんので、あまり心配し過ぎないでください。
乳がんやその他の変化を初期に見つけるためには、自己検診や検査の受診が有効です。また、年齢、ホルモンの変化、授乳経験、体質などによって、乳腺が脂肪に変わる方も多くいらっしゃいます。ご自宅で行うセルフチェックと乳がん検診の定期受診を欠かさないことが、乳がん発症を防ぎ、早期発見に繋がります。